北朝鮮のミサイルの向かう先

 以前フィリピンを訪問していたときに、北朝鮮日本海に向けてミサイルを撃って、そのニュースを聞いたフィリピン人がミサイルが怖いとか、北朝鮮はけしからん国だとかいうようなことを言っていた。日本人からするとフィリピンは北朝鮮からそれなりに離れているので、まずミサイルの射程外だろうという先入観があるので、彼らが来たのミサイルを恐れるというのは自大過ぎるものだなあと思ったりもした。でもよく考えると、フィリピンは台湾のすぐ先だし、ルソン島くらいまでは北朝鮮のミサイルは到達するので、射程範囲内にあるのだった。だから彼らがミサイルが来るかもと恐れるのはそれはそれで現実的なリスクではある。でも、やはり日本人からすると北朝鮮がフィリピンに向けてミサイルを撃つ理由なんて全然ないから、心配しなくてもいいんじゃないかと言おうと思ったけど、そうすると彼らのプライドを傷つけそうだからそうは言わなかった。

 ではなぜ北朝鮮がフィリピンにミサイルを撃たないと日本人が思うかというと、フィリピンと北朝鮮が利害関係があるようにも思えないし、お世辞にもフィリピンから各種援助を引き出すのも難しいだろうから、脅して金を取る線もないなと思うからである。

 

 翻って、我が国では自分のところにミサイルが飛んで来ると思ってる人がそれなりにいる。

 何故か?

 ミサイルを撃つぞと言って脅すのはそれなりにカツアゲには効くやり方ではあると思うけど、じゃあ実際にミサイルを撃つとなると、その瞬間に建前上は北朝鮮は日本とアメリカともしかしたら韓国を敵に回すことになり、勝ち目のない戦いにもつれ込むことになる。そういう選択肢を選ぶことが合理的かというと、そういうことは決してない。だから、北朝鮮のミサイルのうちいくつかは日本の方向に向かって展示されているのだと思う。

 じゃあ北朝鮮は誰に向かってミサイルを打とうとしているのか。そもそも何のためにミサイルを開発したのか。この2つが疑問だ。

 

 北朝鮮は半島国家であるから、地政学的には半島国家は陸軍と海軍の両方に金をかけないといけないので、単独での存立は難しく、海洋国家か大陸国家と同盟を結ぶ必要がある。そうでない場合は何か致命的な戦術がないといけない。

 韓国は伝統的に大陸国家と手を結んでいたが、明治以降はどうやら海洋国家の日本と緩く同盟関係にある。

 では北朝鮮はどうかというと、ソ連があるときはソ連と同盟関係にあったが、もうソ連はなく、冷戦構造の終焉がいよいよ露わになったあたりから核開発に手を染め始めたので、つまり致命的な戦術を手にして単独で存立することを選んだ。と思う。だから中国との「血の同盟」はあると思われていた方が便利だから否定しないという程度に利用している。のだと思う。

 あと、ちなみに人数だけで言えば、北朝鮮の方が韓国よりも兵力は大きい。

2 軍事

(1)基本政策
 北朝鮮の兵力は100万人を超えるとされ,その約3分の2を軍事境界線から100キロメートル以内に配置(米韓両軍の地上兵力は60万人弱)。北朝鮮は,兵器の近代化の遅れを補完する等の理由から,大量破壊兵器,ミサイルの開発・配備等を進めている。
(中略)
(4)兵力
 陸軍102万,海軍6万,空軍11万(ミリタリーバランス2014推定値)
(5)核・ミサイル問題
 2006年10月,2009年5月,2013年2月に核実験を実施し,2012年4月に改訂された憲法には,自らが「核保有国」であることが明記された。また,2006年7月,2009年4月,2012年4月及び12月,2014年3月,6月,及び7月並びに2015年3月など,弾道ミサイル発射も繰り返し実施してきており,依然として核・ミサイル開発に力を入れているものとみられる。

 北朝鮮基礎データ | 外務省

 

 そういうことで、北朝鮮のミサイルというのはただのこけおどしなのだと思うのが妥当な線である。ということで、北朝鮮は誰にでも等しくミサイルを撃つ可能性があり、少なくともフィリピンの方まで届く。ということは、中国のほぼ全土と、ロシアの極東、台湾、韓国、日本、フィリピンの一部、ベトナムの一部までが北朝鮮の脅しが効くか、あるいは本当にミサイルを打ち込める範囲になる。

これまた思わずうなずきたくなる理屈だが、現実はというと(1)北朝鮮は北京を射程に収める核ミサイルを保有している、(2)北朝鮮は地域の混乱要因であり、中国は戦争に巻き込まれかねない、という二重の意味で中国にとってマイナスだ。緩衝地帯どころか、中国の身を危うくしかねない火薬庫というわけだ。

www.newsweekjapan.jp

 

 

 そういうことで、北朝鮮のミサイルは日本を向いていると日本人は思ってるかもしれないけど、別に日本を向いているだけである。フィリピンの方も向いているかもしれないし、韓国の方も向いているかもしれない。みんな等しく標的になる可能性がある。

 では、標的になりたくないとか、または特にどこを狙うわけでもない抑止力としてのミサイルをド貧乏人が持ってたとして、それをどうにかしようとしたときに、例えばお金を払うから中国に向けて撃ってくれとか、ロシアに向けて撃ってくれと日本からオファーすることも有り得なくない話なのである。実際にみんなが意外に思うくらいに最近北朝鮮と中国が仲が悪く、実は戦力だけで言えば北朝鮮はそれなりに強い。もしかしたらいい勝負をするかもしれず、そうなると中国は大混乱に陥るわけで、中国に迷惑を被っている諸国はそれなりに感謝をすることになる。そういう経緯を経て、もしかしたら北朝鮮は親米、親日政権として生まれ変わる日が来るのかもしれない。