上海でのこと

 上海へ大人数で出張に行ったとき、出張中日に現地駐在の人たちとメシを食いました。僕の部署と、隣の部署の人たちがまぜこぜだったりするわけですが。

 そこで、主に隣の部の部長とか、課長とか、同僚と話してて、じゃあ帰ろうかという段になったときに、タクシー乗るときに、まだ9時だからもう一杯いけるなって呟いたら隣の部の部長が、じゃあ俺のホテルで飲もうと、僕と、隣の部署の同僚は部長の泊まるホテルに連行されたのでした。

 その部長という人が、会社の中ではそれなりのポジションなんですが、それまでに隅っこに置かれていたこともあって、優秀な上に、苦労の身についた感じのするおっさんだったりします。最初は神経質そうで、細かそうな面倒なおっさんだなと思ってて、事実そういう面もあるわけですが、付き合いが深くなるにつれてそれはあくまで仕事で身についた癖であって、それとはまた別の何かがある気がすると思うようになったのです。

 部長は部長なのに適当に若いときに初めて上海に泊まったホテルに泊まってて、ぶっちゃけ僕の泊まってるところより安いところに泊まってました。曰く、部長画や憂いところに泊まれば若手が一回出張にいける金を節約できるからと。で、延々とそのホテルで部長の話を聞かされて、そろそろ持病の腰痛が疼き始めたところで、ドンタコスのアボガドソースみたいなつまみを注文したらえらい気に入ったらしく、これうまいなとかいってバクバク食い始めて、椅子に根っこを生やしたのでした。しょうがないので、カクテル飲んで、ウィスキー飲んで、ビールはチェーサーですとか言って間を持たせ、ドンタコス終わったって思ってたら、これ美味いからもう1つもらってなんていわれて、上海の夜はどんどん更けていきました。

 僕はといえば、それまで晩御飯の後に適当によったバーにいた常連の女の子がかわいかったので、今日も2軒目はそこにしようと思ってたのが、腰を折られてなんだかなあと思ったり思わなかったりで、またそれは別の話です。とかく上海は都会で、洗練されて綺麗な女性が多いです。しかも中国人のほうが日本の女性のように気負いがないので、大変付き合いやすいというと御幣があるけれど、話しやすいです。もちろん僕の場合は英語の喋れる女性に限るわけですが。

 そして部長が訥々と喋り始めて、いや、なんで俺説教部屋にいるんだろう、本当はバーの常連の女の子と飲んでたはずなのにと思いつつ、部長の話を聞くと、部長はこれまでずっと怒られて、頭下げて、損品回収して、対作品を収めるみたいな仕事ばかりしていて、それは人に頭を下げるのは一角のものがあるけれど、僕らがしているような開発業務は正直分からないとか、驚愕の事実をバラし始めました。いや、そりゃ知ってるけど、偉い人がそれいったらいかんでしょと思いつつ、話を聞くと、最近は景気が悪くて、会社の人事の新陳代謝が悪いので、僕らの世代がまだぺーぺーで働いてるけど、本当はもっと先頭に立つべきで、部長のポジションの人たちがフォローするのがあるべき姿であるとか、だからどんどんやれと、どんどん出張しろと。

 そこまで言われると多少やる気になるもので、出張には積極的に行って、沢山現地で美味しい酒を飲もうと思ったしだいです。が、そこから更に話が進み、最近の若者はなってないとか、ゆとりとかいうけれど、部長の世代に比べればだいぶ優秀とのことで、部長の若い頃より僕らのほうが出来ると思ってる人は実はそれなりに多いみたいらしいです。

 このように今の若いもんは、みたいなことを言わない珍しいおっさんだなと思っていたら、バブルは駄目だとか、箸にも棒にも引っかからないとか、いや、あんた俺みたいなぺーぺーにそこまでぶっちゃけていいのかみたいな危うい話がずっと続いて、結局はうちに異動して来いというところで話にオチがついたのでした。

 そしてお前らいつ会社辞めてどっかいくかわからないからちゃんと下の者に引継ぎしとけと釘を刺され、今年の新入りに仕込んどけ、っていうか、辞めさせたら切腹だぞといわれて、じゃあ奴が辞めたら僕も辞めますって言ったら急に真顔になったので、バレたかと思ったり思わなかったり。でも最近の大学って景気悪いからしばらくは居座るつもりではあって、せめて部長の下で半年でもご奉公してからばっくれようかなと思った次第です。